アジャイルソフトウェア開発宣言から既に20年以上が経過し世はすっかりアジャイルの時代。。。と思いきや未だにウォーターフォールが適していないプロジェクトなのにウォーターフォールまっしぐらのチームが多くあることでしょう。
いまさらかもしれないですが、そんなしなくてもいい苦労をしているチームに向けて「なぜアジャイル・Scrumなのか?」ということと「アジャイルとは何か?」ということについていくつかの記事にわけてまとめてみます。
チームに必要なもの
前回、チームが必要な理由を説明しました。チームにかかる困難は個人の力だけでは打開できない。チームの力が必要で、その力は個人の能力を高めるものとは別のものであるということでした。
チームに対する困難は、不確実性が高い状況であることが多く、各人で困難を別角度から捉えていることがあることから、チーム全体で学習が必要だったり、対話が必要だったり、お互いの考えを可視化していく、心理的安全性を高める、ポジティブであることが必要です。
ここまで理解ができると、これらを解説した本はたくさんありますよね。
心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える
チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで
チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ
などなど
アジャイルにはチームが必要。すなわち、、、
アジャイルには前提として「チームをつくる」ことが求められています。
フレームワークの一つであるScrumには役割としてのスクラムマスター、プロダクトオーナーに開発者が揃ってScrumチームとしていますが、3者の立場は対等です。
また、レトロスペクティブ(振り返り)がフレームワークに組み込まれており、スプリントの最後にイベントとして実施することを求めていますし、他のイベントもすべてがチームとして動いていくことを前提に設計されています。
ウォーターフォールに慣れたメンバーが各イベントに対して時間が多い、無駄と感じると思うのは、すなわち、今までチームをつくるということが不要であったからということが言えるでしょう。作り切ることが目的であるウォーターフォールではトップダウン、考える人とつくる人の役割分担、タスクを切ってリーダーがタスクを割り当てるやり方が合理的です。チームをつくる必要がないし、チームをつくる時間があれば手を動かしてソフトウェアを作る時間にしたほうがよいのです。これは当然アジャイルをやっていても「ソフトウェアを作り切る」ことが目的になっていたら同じことが言えます。これは次回のテーマで取り扱います。
タックマンモデル
チームの作り方に関する本は多々あれど、タックマンモデルを意識すると良さそうです。
タックマンモデルではチームの形成から散開まで5段階あるとされており、チームを良くしていこうとした場合に今どの位置にいるかでどういうアプローチをとれば良いのかがわかるようになります。
- 形成期(チームが形成される)・・・お互いのことをあまり知らない段階で、まずは信頼関係を深めていく必要があります。
- 混乱期(ぶつかりあう)・・・それぞれの意見が食い違ったり、目標がずれたりする段階です。この時期にはチームのパフォーマンスが一時落ちます。コミュニケーションをより取るようにし、お互いが納得するまで対話を続けることが大事です。
- 統一期(チーム共通の規範が形成される)・・・メンバー全員が共通の目標やビジョンを持てるようになる時期です。チームとして異なる価値観を受け入れられるようになっている状態です。
- 機能期(チームの成果が出る)・・・チームとして成熟し、結果が出る時期です。チームは自律的に活動できるようになり、リーダーが担っていた役割もメンバーが行えるようになります。機能期を維持していく必要があるので、リーダーは引き続き問題発見や軌道修正をしていく必要はあります。また、細かい指示やアドバイスをしなくても自律的に動いている状態なのでマイクロマネジメントは逆効果です。
- 散開期(チームの終結)・・・チームの解散時期です。
Management3.0
Management3.0という考え方があります。
3.0はバージョンを指していて、それ以前の1.0/2.0は以下のうような説明がされています。
- 1.0・・・トップダウン、マイクロマネジメント。下にいる人には責任がほとんどない。いい仕事をしようというモチベーションがない。
- 2.0・・・1.0に、作業効率と従業員のモチベーションを挙げるための大量の活動を追加した状態。トップダウンであることに変わりはない。
3.0は、ヒエラルキーではなく、ネットワークが権限を持っていることを要件としています。参加者全員が強調し、効率良くし、ビジネスゴールを達成し、自己組織化、高い内的動機づけをすることが特徴です。
参考書籍
マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点
マネージング・フォー・ハピネス――チームのやる気を引き出すゲーム、ツール、プラクティス
他、大きな特徴として、ワークショップを通してチームをつくるという考え方が一貫しているところです。
なぜワークショップか?それは「楽しむ」とか「参加の障壁を減らす」いう面もあるのですが、「必ず全員参加」できることが最大の理由なんです(ワークショップを体験した個人の感想です)。さきほど、チーム全体で学習が必要だったり、対話が必要だったり、お互いの考えを可視化していく、心理的安全性を高める、ポジティブであることが必要です。
と書きましたがワークショップで(うまくできれば)これらをほとんど解決できるんですよね。
もちろんファシリ力とかも必要になってきます。最近のリーダーシップの要件にファシリ力が含まれるのはこういうことなんですね。
ファシリ力を高めたい人向けの参考書籍も挙げておきます
人と組織の「アイデア実行力」を高める――OST(オープン・スペース・テクノロジー)実践ガイド
ワークショップというのは準備も実行も時間がかかります。それでもやる必要があるのは、複雑性に適応するため、つまりアジャイルを採用するのと同じ理由です。書籍でももちろんアジャイルについても触れられています。相性がいいのは当然ですね。 さらに組織や人間同士というのも複雑系だからManagementもそれに合うやり方に変わっていく必要があるということです。
Scrumでも、スプリントレビューやレトロスペクティブなどワークショップ形式であるイベントが多いのも納得です。
ウォーターフォールは1.0のManagementであることが多いでしょう。アジャイルでも「ソフトウェアを作り切る」ことが目的になっている場合は1.0または2.0のManagementをしている可能性が高そうです。「プロダクトを作り続ける」必要があるアジャイルでは3.0のManagementが必要、つまりチームをつくる必要があるということでした。
先のタックマンモデルの状態に合わせてManagement3.0のワークショップを選択するのも良さそうです。 たとえば、 形成期にはパーソナルマップとか、混乱期にムービングモチベーターとか、統一期を目指してデリゲーションポーカーとか。
次回は「プロダクトを作り続ける」とはどういうことかに焦点を当ててみたい思います。